デニーのバロックトランペット紹介

今日は、記事「バロックトランペットってなに」で少しお話しした、バロックトランペットとナチュラルトランペットの違いについて触れながら、デニーのバロックトランペットを紹介します。

目次

バロックトランペットとナチュラルトランペットの違い

バロックトランペットとナチュラルトランペットには構造に少し違いがあり、一緒に括るか、別物とするかは様々な意見があって難しい、という話なのですが、ズバリ何が違うかというと、パイプに穴が空いているかどうかです。

バロックトランペットはバルブがなく、パイプだけでできているため、出せない音が存在するわけなのですが、その出せない音も、演奏技術次第で限りなく近い音程の音を出すことはできます。その助けとなるのが、パイプに開けられた穴です。
この穴があることで、モダントランペットのバルブほどではないまでも、ほんの少しの調整が可能になります。

しかし、穴の出現がはっきり記録に残っているのは、1700年代後半です。そのため、実際にハイバロック時代の作曲家が生きた時代には、穴は存在しなかっただろうと考えられています。

ここで思い出したいのは、そもそもバロックトランペット/ナチュラルトランペットというのは、HIPP(H:ヒストリカル I:インフォームド P:パフォーマンス P:プラクティス)=その曲が作曲された当時の楽器(もしくはそのコピー)を使って、当時のスタイルやテクニックをできる限り再現して演奏しよう、という概念の元に使用される、ということです。そのため、穴があいていないトランペットこそが理想的な当時の再現であり、ナチュラルトランペット=穴なしトランペットの完全再現、それ以外をバロックトランペット、と明確に分けるべきだという意見もあります。

ただ、現代人の耳は、平均律(完全に均等に音程が取られているもの)に慣れているため、ナチュラルトランペットはそれが味とはいえ、音が外れていて、アンサンブルの中で浮いて聴こえることも少なくありません。

まずはどれぐらい違うものなのか、聴き比べてみましょう。

この楽器特性ゆえ、長きに渡る論争が今も続いている(多分終わらない笑)わけですが、個人的には、その時の状況によって、穴ありのバロックトランペットを使うこともありだと思っています。どちらにも対応できる技術は持ちつつ、その時々で一番いい状態の音楽が作りあげられる方を選ぶ、という柔軟な感じでもいいのではないかと思っています。

さて、長くなりましたが、ここからはトランペット紹介!

バロックトランペット

基本的にバロックトランペットは、オーダーメイドです。

マーク ヘーレン トランペット Golden Ratio Modular+, 2019

デニーのメインのトランペット。製作者のマークは、当時の音を忠実に再現しながら、現代のトランペット奏者が求める高レベルの機能を実現しています。このトランペットのすごいところは、パイプの組み合わせを変えることで、全てのピッチに対応、そしてなんと穴あきと穴なしまでも変えられちゃうのです!ちなみに穴の数は4つです。

このピッチについてはまた長くなるので、別の記事で説明しますが、デニーが持っているパイプの組み合わせでは、415ヘルツ (Bb, C, D), 430ヘルツ (Bb, C, D), 440ヘルツ (Bb, C, D)が吹けちゃいます。デニーは、バロックのコンサートも古典派のコンサートも、主にこのトランペットで演奏しています。

デービッド スタッフ J. L. Ehe III 1746 Natural Trumpet in F copy, 2016

オリジナル J. L. Ehe 1746, Germanisches Nationalmuseum, Nuremberg のコピー。穴なしの、所謂ナチュラルトランペットというやつです。(415/Fに限り穴ありに組み換え可能)
古典派のオーケストラ作品を演奏する際に使用しているトランペット。基本は、440ヘルツ(F)だけど、パイプを組みかえれば、415ヘルツ (Eb, E, F), 430ヘルツ (Eb, E, F), 440ヘルツ (Eb, E, F) にもなります。
デニーは、ブランデンブルグ2番(超絶技巧の難曲)をこのトランペットで練習中です。

ミシェル ミュンクヴィッツ Riedel 3-hole, 2011

オリジナル J. C. Riedel, Dresden 1752, Musikinstrumentenmuseum Leipzig のコピー。穴は3つ。写真に写っている2つ+下に1つ。表の穴2つの位置は選択可能。
これはデニーが一番初めに買ったバロックトランペット。なんとバロックトランペットを始める随分前、シンガポールの友達のお店で、安いから買ってみようと手に取ったトランペット。まさか専門にすることになろうとは!
430ヘルツは想定されてないので、古典派の作品を演奏するには、ちょっと限りがあって、今はあまり使っていませんが、バロック時代の作品にはピッタリで、学生時代にずっと使っていました。

フラットトランペット

ここで紹介したいのが、フラットトランペット。バロックトランペットの一種ですが、構造はトロンボーンに近いです。トロンボーンのようにバイプをスライドさせることで、パイプだけでは出せなかったフラットの音程が出せるので、フラットトランペットと呼ばれます。

ナサニエル ウッド Flatt trumpet after Talbot/Bull/Tomes, 2020

フラットトランペットは主にイギリス音楽で使われたと記録があります。イギリスの作曲家パーセルのFuneral Music for Queen Mary など、フラットトランペットのために書かれた作品が残されていること、ジェームズトルボット(イギリス人の音楽オタク)の手記に、フラットトランペットについての記述と楽器の設計(長さの計測)が残されていることなどが挙げられますが、残念ながら現存するオリジナルのフラットトランペットはありません。そのため、当時使われていたトランペットの明確な形は不明のままです。

製作者ナサニエルは、トルボットの計測だけでは十分ではないため、フランクトームズ(わりと最近までいたトランペット職人)の後期のデザインと他のフラットトランペット作品からも計測をして、このトランペットを製作しました。
デニーはこのフラットトランペットを、バッハのカンタータの中で、バッハ自身が「スライド付きトランペットで演奏してね(tromba/corno da tirarsi)」と指示している部分に使っています。

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