バロックトランペット/ナチュラルトランペットってなに?

今日は、デニーの専門、バロックトランペット(ナチュラルトランペット)についてのお話。

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バロックトランペットってなに?

私もそうだったのですが、クラシックを習い始めると、どの楽器もまずは現代の楽器で勉強します。例えば、ピアノ。バッハやヘンデルが生きた時代にピアノはまだ存在しておらず、チェンバロなどで演奏されていましたが、まずはピアノでどの作曲家の作品も学びます。

一方これとは別に、HIPP(H:ヒストリカル I:インフォームド P:パフォーマンス P:プラクティス)と呼ばれるものがあります。これは簡単に言うと、その曲が作曲された当時の楽器(もしくはそのコピー)を使って、当時のスタイルやテクニックをできる限り再現して演奏しよう、というものです。

バロックトランペット/ナチュラルトランペットは、主にバロック時代に使われていたトランペットのことで、このHIPPを実現するために使われます。

※バロックトランペットとナチュラルトランペットについては構造に少し違いがあり、一緒に括ってしまうか、別物として扱うかはさまざまな意見があり、しばしば論争にもなりますが、ここではモダントランペットとの違いについて書くので、便宜上、『バロックトランペット』に統一して表記します。これについてはまた別の記事で。

モダントランペットとの違いは?

まずは見た目!ジャジャン。

そもそも長さが全然違います。そしてバルブがない。これが何を意味するかというと。。

トランペットはモダンであってもバロックトランペットであっても、パイプだけの状態では、全部の音を吹くことができません。バルブなしで出せる音は次の通り。

ご覧の通り、パイプだけで出せる音の種類は、パイプが長ければ長いほど増えます。
じゃあ、バロックトランペットはモダントランペットよりたくさんの音が出せるのか、というと、実際はその逆です。なぜなら、モダントランペットには、バルブがあるから。このバルブで何をしているかというと、パイプの長さを変えているのです。その機能によって、モダントランペットは全部の音が出せるようになっています。

対してバロックトランペットは、もともと出せる音はモダントランペットより多いのですが、バルブがないので、これ以上どうすることもできません。つまり欠けた音は欠けたまま。出せないんです。

でない音がある!じゃあどうする?

心配することなかれ。当時の作曲家は、ちゃんとわかっていて、そもそも出せない音を使っていません。
ただ、その作曲家の当時の専属トランペット奏者がものすごくうまい人で、出せない音も、力技で(超絶リップテクニックで)出せちゃう人だった場合、本来出せない音が書いてあることもあります。
現代でも、その音を出せるように、バロックトランペット奏者たちは鍛錬を積んでいます。この本来出せない音をどれだけちゃんとした音程で奏でられるかは、トランペット奏者の腕次第。それについては、また別記事で詳しく書こうと思います。

音の違いは?

モダントランペットは、前に音が飛ぶようにデザインされているのに対し、バロックトランペットの音は横に広がりを持っています。この違いは、室内楽、特にソプラノと通奏低音(ベース)などの設定で顕著にあらわれます。

なんせモダントランペットはとてもパワフルなので、一緒に歌おうと思うと、トランペットには相当後ろに立ってもらうか、かなりソフトに吹いてもらわないと、トランペット以外何も聞こえません、といった感じで、アンサンブルが成り立ちません。トランペット奏者も、抑えて抑えて吹いていると、やっぱり気持ちよく音楽的に演奏できないです。でもバロックトランペットだと音がまろやかなので、ちゃんと横に並んで、お互い思うままに演奏できるのです。

バロックトランペットが使われていた時代

初めてバロックトランペットが使われたのは、1500年代と言われています。そこから、バルブ付きのモダントランペットが出現する1800年代後期まで、バロックトランペットは使われました。結構長い間!
バロックトランペットといっても、使われたのはバロック時代だけではないのです!

初期のトランペットは、戦いのシンボルでした。その起源は、病気の原因とされた病魔を追い払うために、動物のツノや、巻貝の殻を使い、けたたましい音を鳴らしたことだと言われています。そこから、戦場で少人数で大人数と戦う際、大きな音をならして部隊を大きく見せるなど相手への威嚇、もしくは戦場や狩りでの仲間への合図に使われるようになり、さらには、単純な『戦いでの合図』から、『仲間の鼓舞』や勝利を祈る為の『神様の召喚』へと変化していきました。

1500年代

技術の発達によってトランペットは進化し、この頃には楽器の形はいわゆるトランペットの形状になりつつありましたが、まだ音域も低く、数音しか出せませんでした。こんな感じ。曲調からも合図の類であることが窺えます。

ハインリヒ・リューベックのトランペットのための音楽ノート(1598)より

 

そこから数十年の間に、ベル(ラッパの部分)の形やマウスピースの形が改良され、演奏者の技術の飛躍的な向上と共に、より高い音域の演奏が可能になりました。トランペットはより高度で効果的な『メロディ』を奏でることが可能になったのです。こんな感じ。天使のラッパっぽい✨

ギロラーモ・ファンティー二の作品集(1638)より

ハイバロック時代(1680〜1750年)

バロックトランペットが一番輝いていたのは、ハイバロック時代(1680〜1750年)。ヘンデル、バッハ、テレマン、ラモー、ヴィヴァルディなどが、宗教曲、オーケストラ、ソロ作品でたくさんバロックトランペットの曲を作ってくれて、バロックトランペットがもっとも脚光を浴びる時代となりました。

古典派時代

ハイバロック時代が過ぎて、古典派に入ると、音楽のスタイルが変化していき、バロックトランペットは、オーケストラの中でハーモニーを支える役として、もしくは1500年代と同じようにファンファーレとして扱われるようになりました。
原因は、先述のように、バロックトランペットには出せない音があり、古典派から盛んに用いられるようになった急激な転調についていけなくなってしまったこと、それに対応できる凄腕のトランペット奏者がいなくなってしまったことが大きいそうです。

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